2025.12.15

コラム:21世紀の土地家屋調査士像を探る

新潟県土地家屋調査士会 会員 本間 英明(1957.11 生)
演題:登記情報とインデックスマップ

はじめに

土地家屋調査士法第一条には「業務の適正を図る事により、不動産の表示に関する登記手続の円滑な実施に資し、もって不動産に係る国民の権利の明確化に寄与する」と成文化されている。つまり、私たちの職責は、表示に関する登記制度を通じて権利の客体の明確化に寄与することにある。現地の境界標埋設であり登記情報の整備である。

近年、私たちの取り巻く環境は規制緩和や情報化等の流れによって目まぐるしく進歩を遂げており、政策面では、規制改革(権益構造)・司法制度改革・裁判外紛争解決制度(ADR)・電子申請・電子閲覧(情報化)、第5次国土調査事業計画(地籍調査促進)等、技術面では、GIS・GPS・CALS・電子基準点(登記基準点)等の普及が進んでいる。10年前には予想も出来ない変化が押し寄せてきている。

しかし、地図整備についてはどうだろうか? 国民にとって利便性の高い地図整備の進捗が他の変化のスピードに比較して遅れを感じるのは私だけだろうか? 地図整備は、多くの資料収集から始まり、複雑な権利調整、境界確定作業、そして、精度の要求される測量作業等へと多大な労力と費用がかかり一足飛びに整備が進む作業でないことは承知している。

しかし、日々、登記情報は動いている。 やはり、一日も早く地図の整備が待たれる。22世紀になった時点で不動産登記法17条地図が幻にならない為にも、この21世紀に地図のあり方について議論する必要がある。

さて、皆さんは「インデックスマップ」という言葉をご存知だろうか? インデックスは索引という意味なので、索引するための「しおり地図」と解釈できる。私がこの言葉を知ったのは1996年12月に遡る。愛媛会の中川寿一先生が主管する「地図に関する研究会」の講演会で基調講演された法務省民事局付検事小林久起先生の講演記録を読んだことがきっかけだった。

要旨:
1.GIS時代の地図の役割は、情報集積拠点・物流センターになる。
2.土地の情報集積拠点を特定させる為には、インデックス機能の高い地図整備が必要。
3.土地家屋調査士の役割は、地籍情報の作製・集積・解析能力を磨くこと。

その瞬間、目から鱗が落ちるような新鮮さを感じた。その後、この研究会に身をおき、地図の役割、地図に必要な機能、地図の高度化利用について研究を始めた。

研究会では、単なる研究で終わるのではなく、新たな市場開拓と価値の創造を目標に掲げ、「現地には杭を、地図はインデックスマップ」というスローガンの基でインデックスマップの実用化に向けて研究を進めた。従来の精度や法令から来る地図のあり方を転換して、国民が求める地図とは何か? 情報化社会の地図とはどうあるべきか? 利用者側(使い手)の立場で地図の役割と機能について議論を深めた。

本稿では、その研究会で経験した足跡(失敗事例)をもとに、21世紀の土地家屋調査士像に迫ってみたい。

尚、本研究は、国土地理院との官民公募型共同研究を始め、自治体との実証実験、GIS専門分野の大学の先生やシステム会社の技術者の皆さんからのご指導、全国の土地家屋調査士の諸先生からのご支援、そして、国等の補助事業で資金的な支援を頂きここまでこぎつけた。現在、事業としては中小企業創造法の活動促進認定を受け、Webサービスではビジネスモデルの特許出願まで完了した。いよいよプロジェクトの事業化に向けてアクセルを踏み出して行きたい。


次第

  1. 地図に関する研究会での取り組み

    1. インデックスマップの考え方

    2. 簡易地図エンジンの開発

    3. インデックスマップの活用事例

  2. 地域空間データの現地調査構想

  3. Web-GIS による地域情報センター構想


1、地図に関する研究会での取り組み(問題提起と実証実験)

1)インデックスマップの考え方

地図整備の進捗

不動産登記法17条地図の整備進捗、また、国土調査事業の整備進捗も50年の月日を費やしているが順調とは言えない。その原因は、復元精度に重点をおく地図作りのために、必要以上に時間や労力面で高コスト体質になっている事が考えられる。

しかし、政策面での改革は進んでいる。2000年から第5次国土調査事業計画がスタートしており、従来の境界確定が容易な農地や中山間地の整備から市街地に地図整備の普及促進の視点が移っている。

また、地図整備の前提である境界紛争解決の手法も裁判所しかないことが長期化の原因であったが、裁判外紛争解決制度(ADR)の立法化の目処や土地家屋調査士の境界鑑定に対する意識の高まりの中で紛争解決の窓口は着実に広がってきている。

このように政策面での施策や技術的な進歩による地図整備の普及促進に期待を寄せる一方、現在の地図整備に対するニーズは高く、緊急性を要する課題であることには違いない。打つ手はないものだろうか?

地図の役割

国民が求める地図への期待とは何か? 近年普及している、カーナビゲーションや携帯端末による位置参照情報サービスの普及の勢いは目覚しいものがある。この視点から考えて見たい。 従前は、道路マップや観光マップを必要ごとに、目的毎に探していた。

しかし、今は情報通信という新しいインフラ環境を使って、何処にいても、地図を通して位置を特定し、見たい情報が簡単に見れる時代となった。人気の原因は、何処にいても瞬時に地図を通して色々な情報が検索出来る利便性である。

法務局の地図から考えて見たい。

国民が馴染みの薄い地番検索から住居表示や住宅地図、公図、測量図が特定でき、その地番の上にある登記情報を閲覧できる。そのような登記情報サービスは、国民にとっても利便性が高そうである。 「登記簿を見てから地図を見る」「地図を見てから登記簿を見る」。通信環境を通じて、色々な情報が行き来往来の出来る地図サービスが使い勝手の良い地図と言えそうである。

情報化が進むGIS時代の地籍情報は、2次元的な図面データから3次元的な空間データ、そして、4次元的な時空間データといった視点が必要になってくる。また、情報化社会は、点在する情報を、各々に格納(サーバー)されている情報(データベース)から引き出し検索が出来る時代が来る。 そのような時代には地図の役割は変わる。それは、復元するための縮尺精度ではなく、現地への位置特定、隣接地との位相関係、また、多次元的な地籍情報へのアクセスコード(紐づけ=データへの繋ぎ手)、そして、情報コンテンツ(情報の内容)の器という入れ物の役割が重要になってくる。

私たちの日々の業務から考えてみたい。地図整備の前提である境界確定作業は、精度の高い地図や地積測量図があることで必ずしも容易に決まる保証はない。その作業は、法務局を始め各行政諸官庁から収集した証拠資料や各種の図面を収集して、いつ、誰が、作製したものか? また、現地の工作物等の状況、境界標の埋設状況、基点(登記基準点)からの復元作業等の現地調査から数値データの照合を行い、関係者(所有者・隣接者・官公庁等)からの立会いを求め、経緯を分析し、知りえた複合的な情報を総合的に最終判断を行っている。つまり、地図の縮尺精度だけで現地を復元しているのではない。

地図の役割を考える上で、地図が現地を表現するのではなく、現地を表現した集合体が地図であるという認識を忘れてはいけない。地図の役割を、現地の役割や地積測量図の役割と混同してはいけないのである。 小泉首相(当時)語録の「民で出来る事は民で…」という言葉を流用すれば、現地で出来る役割は現地に任せ、データベース(地積測量図等)で判断できる事はデータベースに役割を委ね、地図にしか出来ない役割/機能に特化することが重要である。

では、地図に必要な機能を考えてみたい。先ほどの地図への期待をおさらいすると、以下のようになる。

1.地図から位置を特定させる機能(概略な図形情報と住所・地番情報の関連付)
2.地図と属性情報への紐づけ機能(属性情報と地図の繋ぎ手=地番コード)
3.多くの空間データが集まる器の機能(クリアリングハウス)

これらの機能を支えるためのキーワードは住所コードが重要な決め手となる。この基本開発構想に基づき、具体的な設計作業に入った。

・ベースマップをどうするのか?
・住所コードはどのように整備するのか?
・ベースマップと住所コードをどう繋ぐのか?
・メンテナンスはどう考えるか?

研究を進め試行錯誤を繰り返しながらインデックスマップの原型が完成した。

インデックス(デジタル)マップとは?

ベースマップは、国土交通省国土地理院が刊行している[数値地図2500](空間データ基盤)を採用、不足している地図属性は、行政情報である都市計画図、法務局の地図(公図)、住宅地図(使用許諾を受けて)等の既存の地図を利用して編集した。また、それらの地図情報を補完する役割として、自己の事務所に眠る測量成果や地域情報(販売パンフレット、分譲計画図等)を使って最終的に仕上げた。 また、地図と属性情報を繋ぐために、全国統一コードを住所情報とし、番・丁目・町・建物等に住所コードを予め地図データに持たせている。(統合型GIS共用空間データの16レイヤーのうち11レイヤーは対応済み)

インデックスマップを設計するにあたり、復元性の精度は、地積測量図や現地の境界標の役割として位置付け、縮尺精度や形状精度は追求しなかった。反面、インデックス機能である地番や住居表示等の住所情報についての機能はこだわりを持った。 地理情報システムでは、基礎的なベースマップのことを空間データ基盤と呼ぶ。情報化社会の地籍情報は、多元的な空間データの集合体である。ゆえに、境界情報や数値データも属性情報の1つに過ぎない。

繰り返しになるが、社会に点在する空間データの属性情報が紐づくためのインデックス機能は、地番や住居表示と言った住所情報が要となる。また、インデックスマップは、大まかな図形情報と位置検索機能(道路マップのような)を持ち、インデックス機能として、鮮度と精度の高い住所情報を持ち合わせた地図を強くイメージして開発を進めた。

しかし、建物の新築情報や大規模な開発情報は、リアルタイムに航空撮影をするわけには行かないので、存在する既存の資料や現地調査によってデータを取得してデフォルメで地図に書き入れた。この問題は、理解を得るまで時間がかかった。批判が多かったのは、精度の高い地図を作製している方々や精度の高い地図を利用している行政担当者の方々だった。

「精度の低い地図は使い物にならない」と随分お叱りをうけた。 しかし、日頃地図を使っていない行政担当者や予算確保が難しい自治体の担当者の方々は使い方を工夫して頂いている。ここでも、使える人の活用の共通項は、データベースの入れ物としての用途であった(期待通り、予想通り)。

また、民間では、エリアマーケティング、物件管理に活用事例が集中するためか、縮尺精度の件でクレームが入る事はなかった。しかし、属性情報の量と質には注文が相次ぎ、活用する為に情報コンテンツの整備の遅れが課題として残った。 インデックスマップも、徐々にファンが増え個人的には自信を持ちはじめた。縮尺・形状精度の低さを指摘されてもあくまでも情報を引き出す「のりしろ」が重要と言う確信犯に変わっていった。

しかし、このバックボーンは土地家屋調査士としての専門知識に支えられていたと思う。つまり、いい加減な地図と言われても、数ミリの誤差で境界標を埋設する専門家、詳細な地図や測量図を作成する専門家、点在する地籍情報を解析できる専門家が監修し地域を守っている迫力は大きい。インデックスマップの縮尺精度の課題は、職業専門家の存在が強い抑止力になっている。

むろん、縮尺精度の高い地図を否定するものでない、一日も早い整備を心待ちしている。しかし、精密な地図が整備されるまでの過渡的な簡易地図として考えても、社会的な経済効果は大きいと考える。

2)簡易な地図エンジン MapCall の開発

インデックスマップの開発に目処をつけ、次の課題は簡易地図エンジンの開発に移った。私の目からは、GIS製品は大掛かりなシステムが多く、高度で専門性が高く、また、高価なシステムが多かった。特に地図エンジンのメーカーにこだわりはなかったが、安価で操作性の簡単な地図エンジンが欲しかった。最近こそ、国産の地図開発会社が増えてきたが、当時は海外のものばかりで苦労した。

そこで、GISの利用ごとに、個別な業務分野(農地管理、資産管理等の施設管理)、空間データを情報共用する為の分野、また、Web-GISを通じて情報発信する分野の考え方を分けて開発を進めた。悪戦苦闘の結果、研究会ブランドとして MapCall(商標登録済)という簡易な地図ビューアーエンジンの原型を開発した。データベース機能付デジタル住宅地図を標準装備した地図の誕生である。

開発の視点としては、従来のデスクトップGIS製品は、専門的であり企業が自社の顧客データを地図上で分析するためには、多くのステップがかかっていた。また、位置特定作業を行なわなければ、地理情報を利用することはできず、その機能(詳細なアドレスマッチング)を標準で備えているGIS製品は皆無だった。そこで開発したのが、顧客自身が簡単に地理情報を利用できるエントリー向けのGISソフトウェアがMapCallである。

MapCallは、インデックスマップをベースに、ピンポイント検索、住所マッチング機能を備え、日々の入力作業と地理情報整備を同時に行なうことが可能となっている。また、ここで整備したデータは、より本格的なデスクトップGIS製品などで、加工したり、主題図に仕上げたりする基礎データとして取り出すことができる。現在では、このMapCallを使った派生システムを数多くリリースし好評を頂いている。

3)インデックスマップを使った活用事例

下田村観光マップ

新潟県下田村のホームページは、観光客向けには観光情報を、住民向けには避難所情報などを案内する目的で開発したWeb-GISの事例である。中でも、下田村の山岳マップは、細い沢などが細かく入れられ、下田村でなければ発信できない優良なコンテンツとして好評を得ている。開発にあたっては、地図サーバー、クライアントとも独自エンジンにて開発を行なった。

最近でこそ様々なWeb-GIS製品が一般的になっているが、当時はそのような製品が無く、あってもラスター配信のものが主流であった。そのような状況の中で、ベクター配信を実用的な反応速度で実現することを目指して開発にあたった。地図サーバーにDelphi、クライアントにJavaアプレットを使用し、要求された部分のみをクライアントに戻すようにして高速化を図っている。当時は、ISDNをメインターゲットとして想定する必要があったので、戻すデータについても独自の圧縮技術等の工夫を行なっている。

十日町消防

住民データベース、危険施設データベースなどの整備にインデックスマップを利用している事例である。この開発事例では、入力効率を向上させることに成功している。ここで整備したデータは指令台システムで利用できるとともに、出動報告書作成など、消防活動全般の作業効率化に貢献している。指令台システムと役割を分け、地理情報整備のツールとしての役割を重視しシステムを設計した。グループウェアとの連携も視野に入れたシステムである。

刈羽村防災名簿管理

災害時に救助しなければならない、身障者や高齢者のデータベースに地理情報システムを用いている事例である。インデックスマップを採用することで、データベースの入力時に位置特定を行い、救助マップを作成することを可能とした。実際の災害時には、地域の消防団などに整備したマップを配り、効率よく救助に役立てている。また刈羽村では、名簿管理システムが別に稼動していたが、これを作り直すことなく、作業を1つ組み込んでいただく形で提案を行なった。

大地の芸術祭

大地の芸術祭のホームページにおいて、観光客向けに、芸術作品、宿泊施設、イベント会場などを紹介する目的で、地図が使われている事例である。芸術作品の一覧画面から、作品の置かれている場所が地図上で参照でき、同時に周辺情報を取得できる。さらに、地図上にある道路で、通行が困難な場合は、警告を表示する工夫を行っている。作品や宿泊施設などのデータは、運用者で登録・修正などの管理ができ、メンテナンス性に優れている。

法定外管理・地籍管理システム

地方分権一括法により2000年4月1日より法定外公共財産(里道・水路)の財産管理が、国(建設省)から地元市町村に移管され5年間の期限で完了しなければならない。この作業量は、国土調査に匹敵する。特別法(道路法・河川法)との切り分け作業、位置の特定、付け替え、機能喪失財産の切り分け作業が伴い、大量な既存の測量データの収集、整理に追われている。

膨大な資料や地図によって、譲与手続きが完了するが、同時にそれから里道・水路の管理業務が始まるのである。本システムは、国土地理院との共同研究成果に基づくシステムであり、数値地図2500を最大限活用している。現在は、法定外公共物譲与支援システムの開発を終え、今後の管理業務に必要な公共財産管理、境界管理、占有物管理、道路台帳管理の開発に着手している。

土地家屋調査士事務所 資料センター

土地家屋調査士事務所の保有データのほとんどが地理情報を含んでいる。開発にあたっては、この地理情報を最大限に活かす事を念頭に置いた。日常業務を通して、地理情報を整備できるインデックスマップの特徴を活かし、職員が特別な処理をしなくても位置情報が蓄積されるシステムとした。蓄積された位置情報をもとに、過去行なった調査の内容や資料を1クリックで取得できるようになり、資料収集の時間が短縮される。

それと同時に、以前は部門間の情報共有がなかなか図られなかったが、位置という共通言語に接点を求めることで、様々な情報共有やコラボレーションが期待されている。これらは、Web-GISを用いることで、イントラネットやグループウェアと協調でき、業務全般に渡って地理情報を活用できる。Web-GISはセットアップの手間が短縮でき、クライアントライセンス料を抑えることでも効果的だ。

将来的には、専門性を活かしたB2Cのサービスを立ち上げ、専門家による相談、ナレッジの提供、地理サービスの提供などを展開する予定だ。特に、地理サービスに関しては、導入コストとランニングコスト等の手間がかかるために、導入を控えていた企業、団体に共同で利用していただくサービスを始める。

地理サービス提供サーバでは、手軽にGISを利用できるように、デジタル地図、コンテンツ、機能を備えている。利用者は必要な地図(新潟県・石川県全域・富山県一部)やコンテンツ、機能を選択しGISを手軽に利用できる。今後、GIS利用者は、複数のサーバから情報を収集し、自社のデータを重ね合わせ、分析、集計が可能になる。

ただし、それらの恩恵を受けるためには自社のデータをGISで活用できる形に整備することが必要である。当事務所では、利用者が使いやすい形に既存のGISデータ、機能を変化させていくとともに、利用者のデータ整備に協力していきたい。

2、地域空間データの現地調査構想

更新情報

1.大規模な再開発、区画整理、道路新設等の地形状の変化(土地の図形情報)
2.新築建物、取壊し等の建物形状の変化(建物の図形情報)
3.市町村合併や住居表示変更による住居表示の変更(住所情報)

メンテナンス

前段で申しあげた図形情報のメンテナンスは航空撮影により更新できるが、更新までの期間の形状補正をどうするか? 航空撮影でも調査出来ない住所情報をどう調査するか? また、住居表示等の住所の変更情報と地図の位置特定をどうするか? もっとも、頭の痛い問題であった。 虫の良い発想であるが、この地図が普及してメンテナンス報酬が潤沢にもらえれば問題は解決する…卵が先か鶏が先かの議論になる。しかし、これではコストダウンにはつながらない。

当初は、地元の住宅地図会社との連携による方法を採ったが、紙ベースの不定期なメンテナンス体制や地図雑誌の売れ行き動向でメンテナンスサイクルが変わってくる不安が残った。現在、国内で一定の精度と鮮度を保って一定期間、同一周期で住所情報の特定調査する体制は存在しない。各地域で鮮度の高い空間データ情報の高まりや地域のデータコンテンツの収集を考えると、これらの現地調査体制は社会インフラとしてニーズはある。ここに新しい事業の芽がないだろうか?

地域社会に密着した専門家の手によって、自分の地域の地図をつくり、その地域の空間データを整備、収集、メンテナンスする体制があっても良さそうだ。 住所情報の調査件数を概算で試算すると、全国5000万世帯、年間の移動世帯を10%と仮定して500万世帯、新築着工棟数は年間30万棟に推定される。気が遠くなる数字だ。

しかし、現地に強い・地域社会に根ざした足腰の強い専門家である土地家屋調査士の手で、自分の愛する郷土を5平方キロ現地調査して守る気概があれば、2000人でこの体制が出来る。これは夢物語ではない。(国土面積377,846.58平方キロの内、住所情報がある地域を10万平方キロと想定)

事務所倉庫の開放

前段で申しあげた古いものに価値がある。境界確定作業では、古い明治時代の附属台帳地図や分筆申告書を調査して、立会い調書を調べて、今の現地のルーツを紐解いている。こんな推理作業は御馴染みだと思う。 日頃の業務を通じて作製した調査資料は事務所の倉庫に眠っていないだろうか? 古い資料は責任がとれないからと言って、粗大ゴミとしてホコリをかぶっていないだろうか?情報化社会では、これらの資料が属性情報やデータベースとして価値をもつ。

又、有益な情報として後世に伝える歴史的な証拠資料と考えなければいけない。 むろん、プライバシーや著作権等の問題があるので、情報公開をひとくくりに論ずる事は出来ないが、GIS社会では、紙の資料が空間データとして貴重なデータベースになり国民の財産になると認識しなければならない。私の事務所でも、調査資料を出来るだけペーパレス化し、事件簿をインデックスマップに格納し、受託事件に住所コードを付加して空間データとして再処理加工を進めている。

GPSを活用したメンテナンス

現地調査で情報収集を行ったデータを効率的に地図データに反映出来る現地密着型GPS装置の改良を試みた。県の補助事業で開発したが、GPS・携帯端末・ジャイロコンパス・レーザー測距計を組み立て「フィードバックシステム」と名づけたが、お弁当箱をリュックサックでかつぎ重量感のある装置に出来上がった。コスト面でも大量に配るには採算が合わなく、マルチパスの問題で精度がとれず、コスト、精度、重量ともに実用化には至らなかった。

しかし、近年、究極のダウンサイジングとして、Linux ServerとGPSが合体した装置を低コストで開発がなされた。また、通信カード(PHS/DoPa/GSM/無線LAN)を挿せばイベントトリガーシステムが構築できる名刺サイズのGPSである。この画期的な開発をしたのは、無線通信システムの開発を行うベンチャー企業である株式会社 ZCC(東京都稲城市 代表取締役 杉岡 玲人)である。 この会社との連携で名刺大のスペースにLinux PCと高精度GPSと通信モジュールの3種類ユニットを統合化した iiGPS(アイ・アイ・ジーピーエス)を現地調査装置として開発を検討している。

従来のGPSによる移動体管理では、管理者が常に移動体の位置を把握するために移動体から頻繁に位置情報を取得していた。これにより移動体と管理者間の通信費用がかさむことが、GPS移動体管理システムの普及に大きな障害となっていた。そこで、移動体側に判断機能を持たせ位置情報に基づいた特定の動作をおこなわせる「イベントトリガー型システム」が考案された。さらに一歩進めて超小型・高性能低価格のLinux PCを組込むことで移動体自身がWEBサーバーやメールサーバーになることができ、移動体の情報を配信する場合にも管理者側に高価なサーバーシステムを構築せずに移動体から直接メール配信や情報発信ができる利点を持つ。

従来の主流であったサーバークライアント型で、常に移動体をポーリングして位置情報を取得していくシステムに比較して、その導入コストは10分の1以下となり、運用コストもほとんどかからない。現在、産業廃棄物を運搬するトラックに装着し、時刻と位置データを10秒ごとに記録し、地図上に走行履歴を表示印刷することで不法投棄を防止するシステムや、建設重機に装着し、現場から一定の距離を越えた場合、自動的にエンジンを停止するシステム(盗難された建設用重機による金庫・ATM窃盗犯罪を防止)などが具体的に検討されている。また、技術面でマルチパスの解消を図り単独測位時に7m、RTK-DGPS補正を行い1mの測位精度が実現できている。

3、Web-GIS による地域情報センター構想

Web-GISとは、インターネットのWebブラウザソフトを使って、GISのサービスを受け、空間データを処理する仕組みと定義されている。個別なGISソフトを購入せずともWebブラウザソフトからGISが簡単にどこでも操作できる社会である。近年、ユビキタス情報社会という言葉が出てきているが、私流の解釈では、「ドラえもんのどこでもドア」の感覚である。21世紀は、コンピューターが限りなく小型、軽量、安価になり、私たちの身の回りにあふれる時代と予想される。利用する立場で見ると、必要な情報が、必要なときに、何処からでも利用できる便利な時代となる。

イメージ例を思い浮かべて欲しい。不動産を購入したい人が、現地の販売の立て看板を見ながらそこにある住所IDを携帯端末に入力、地域情報センターにアクセスし販売不動産のパンフレットや物件概要書が読める、むろん、そこで仮予約も出来る。また、法務局にアクセスすると当該不動産の登記情報(地図や測量図、登記簿)が入手、そして、調査したコンサルティング会社から調査報告書や地盤データ、地質汚染データを入手できる。つまり、インターネット上で繋がっている情報はどこでもアクセスが出来、情報を読める環境が整う社会である。

また、この時代が到来した次の社会に求められるものは、地域に密着した情報コンテンツ(情報の内容)である。先ほど、倉庫に眠る資料に住所コードを付加している話をしたが、同じように地域の空間データ(地籍情報)に住所コードを付加すれば、地図から見える世界が広がるのである。 当事務所では、自社の資料センターを発展させて地域情報センターの開設を準備している。つまり、地域の地図共同利用サービスである。

現在の地図コンテンツは、北陸3県の住宅地図、都市計画図、路線価図等の整備を終え、属性情報として事件簿や公示可能な図面・写真等を予定している。また、地域の企業と連携してコンソーシアムを作り、地域の地図ポータルサイトとして発展を目指している。 現在、地域情報(生活情報、観光情報、医療情報、イベント情報、行政情報が地図情報とリンク)やビジネス情報のコンテンツ整備を進めている。尚、機能としては、名称や住所などから検索して目的の周辺を表示し、拡大/縮小、移動、距離測定、面積測定、印刷、検索したポイントにあるホームページにリンクして掲示、印刷できるサービスなどを予定している。


おわりに

21世紀は、少子高齢化社会の到来を迎え経済は長期デフレ経済と構造不況からの脱却、e-japan構想における高度情報化社会の到来、そして、経済構造改革による規制改革、司法制度改革等、変化の嵐の中で始まった。 果たして、21世紀はどんな時代になるのか? 私も1982年、地元新潟で開業して早くも調査士歴22年目を迎える。

長らく続いた権益による業務独占の資格業も終わりを告げ、専門サービス業としての意識転換を図らなければならない時代である。依頼者の多様なニーズに応える意味で、関連する資格者と連携を図りワンストップサービスの体制を充実させ、専門知識と経験を活かしたサービスを商品化、メニュー化して国民の期待に応えなければ生き残れない。

いつの時代も、変化の中には必ず活路のチャンスがある。この度「21世紀の土地家屋調査士像を探る」本稿の課題を頂いたことに深く感謝し、これを機に、インデックスマップの認知が広がり、地域空間データの現地調査構想や地域情報センター構想の輪が全国へ広がる事を願ってやまない。